

伝説のチェスプレーヤー、「リトル・アリョーヒン」の物語
Kindleにて読了。
私はこの本をほぼ「タイトル買い」したので、本を読み始めてチェスの話だとわかったときは驚きました。
あらすじ
ある日、主人公の少年は廃車になったバスに暮らす「マスター」と出会う。
マスターにチェスを教わった少年は、その魅力に取り憑かれる。
少年には友達がいた。
遊園地の屋上に取り残された象のインディラ。
マスターの猫のポーン。
そして壁に取り残された少女ミイラ。
少年は変わったチェスの仕方をしていた。
それは、猫のポーンを抱いてチェス盤の下に入って考えるというもの。
マスターの勧めもあってチェスクラブへの入門試験に臨んだ少年だったが、
机の下に潜った少年は、クラブから入会を断られてしまった。
その後、ひょんなことから少年は「人形の中に入って」チェスをすることになる。
少年はチェスを指す人形「リトル・アリョーヒン」となり、多くのプレイヤーを相手に美しい棋譜の数々を残していく。
ボードゲームがテーマの物語は、おもしろい。
ヒカルの碁や、3月のライオンなど、ボードゲームを題材にした物語にはついついのめり込んでしまいます。
この『猫を抱いて象と泳ぐ』もとても面白く一気に読んでしまいました。
しかし、この小説は「息詰まる真剣勝負にハラハラ」といったお話ではありません。
どちらかと言えば川端康成の『名人』のほうが近いでしょうか。
『名人』は記者の目からみた名人なので視点や物語性に違いはありますが、「本を読んでいて、時間が静かにゆっくりと過ぎていく感覚」は近いものがあると感じました。
チェスに「勝ち負け」ではなく、その「美しさ」にこだわる主人公
主人公はもちろんチェスの才能があり、とても強い。
ですが、彼がチェスを指す際にとても重要視しているのが、その「美しさ」です。
お話の中では「詩」のようだと例えられています。
チェスに限らず囲碁・将棋などなんでもそうなのでしょうが、「一流の人間同士の勝負の美しさ」にはなぜか心惹かれるものがあります。
それこそ仕事で作る文章や、プログラムや、ブログにだって「優れた人が作る美しさ」のようなものがあるのかなと思いました。
そう考えると、今自分に見えている中での「良い」「悪い」を超えたところに、もっと綺麗な世界が広がっているのかもしれません。
ボードゲームの勝負の世界に惹きこまれながらも、その美しさに静かに浸れる。いい小説でした。オススメです。
【本の話 3】